名古屋大学大学院 名誉教授 福井先生コラム vol.1
宇宙の始まり
宇宙がどうやって生まれたのか、だれもが知りたい謎である。今からほぼ100年前の1920年代に大きな手がかりがみつかった。アメリカの天文台で観測していた天文学者、ハッブルが銀河の速度を測り、多くの銀河が遠ざかる運動をしていることを見つけたのである。しかも、遠い銀河ほど遠ざかる速度が大きくなる。
それでは、過去にさかのぼるとどうなるか。時計を逆に巻き戻すと、銀河はどんどん我々に近づいてくるはずである。ついには、ある時点で全ての銀河が1点に集中していた時代があったことが想像される。これこそが、宇宙の始まりの瞬間ではないか、という「妄想」が浮かんでくる。
その後の研究によって、この考えは妄想どころか、とても正しいことがわかってきた。ハッブルの発見は「銀河の後退」と呼ばれる。宇宙が一点に集中していたのは、いまからおよそ100億年前と思われる。そのころの宇宙がどうなっていたのか、追求する研究が行われ、ビッグバンと呼ばれる大爆発が生み出した熱い宇宙が、創成期の宇宙の姿だとかんがえられている。
ハッブルの法則・・・ハッブルが1929年に発表した銀河の視線速度についての法則性。 遠方にある銀河はすべてわれわれ観測者から遠ざかりつつあり,その後退速度が各銀河までの距離に比例するというもの。 これは宇宙の空間が一様にのびつつあると考えればつじつまが合い,一般相対性理論に基づく膨張宇宙モデルに観測的基礎を与えた。
銀河の後退の他、2つの観測的な証拠が得られている。ひとつは、そのころの宇宙が熱かったことを示すヘリウム原子の存在である。ヘリウムは水素の原子核を4個合成してつくられる。この合成のためには非常な高温が必要である。ヘリウムは色々な銀河の全てに存在することがわかっており、それを説明するためには、宇宙全体でヘリウムが合成されたと考えるしかない。つまり、宇宙全体が熱いとするビッグバンが支持される。

もうひとつの証拠が、宇宙背景放射の存在である。熱い宇宙には「ほとぼり」とでも呼ぶべき名残が期待される。焚き火のほとぼりのようなものである。ほとぼりは、赤外線放射となることが予想された。実際に宇宙のほとぼりが、宇宙の至ることに存在することが1965年に発見され、宇宙背景放射と呼ばれることになった。宇宙全体に満ちる宇宙背景放射の総エネルギーは膨大であり、銀河を含む全ての天体がこの放射を浴びている。人間も例外ではない。
注)宇宙マイクロ波背景放射(CMB)とは、宇宙のどの方向からも一様に降り注いでいる電磁波です。
1964年にアーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンが、その存在を発見し、1978年にノーベル物理学賞を受賞しました。CMBはビッグバン直後に発生したと考えられています。 そのため「宇宙最古の光」とも呼ばれています。
以上のような研究の歴史を経て、宇宙が138億年前のビッグバンによって誕生したことは、今や人類の知の基盤となっている。しかし、問題はここで終わらない。ビッグバンを産み出した仕組みは何なのか。さらにその起源を求める研究が続けられており、最新の宇宙望遠鏡JWSTや、電波望遠鏡ALMAの観測が注目されている。
次回に続く・・
*アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となって開発した口径6.5mの赤外線観測用宇宙望遠鏡。 ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、欧州宇宙局(ESA)と共同で運用されている。
**アルマ望遠鏡は、日本を含む東アジア、北米、欧州南天天文台加盟国およびチリの国際協力によってチリに建設された巨大電波望遠鏡です。口径12メートルおよび7メートルの合計66台のパラボラを組み合わせ、ミリ波やサブミリ波という波長の短い電波で天体を観測します。